立ち読みコーナー
目次
264ページ
騎士服の花嫁       5
あとがき         261
179ページ~
 ディアデは伏せていた顔を上げ、真っ直ぐにコンラートを見た。コンラートはいつでも直球でものを言う、と思った。
(静かな優しい口調。けれど、回りくどい言い方はしない)
 ディアデが最も聞きたくないこと、リンディあってのディアデ、ということさえも、こうしてはっきりと口にする。人によっては繊細さに欠ける男だと取られるだろう。けれどディアデはコンラートと話していて、不快な気分を味わったり悲しくなったことは、この十年、ただの一度もない。砂糖をまぶしたような甘い言い回しをしないからきつく感じられるが、コンラートは人を傷つけることは絶対に言わないのだ。
(……妃殿下の寵愛を得られず、それを誇示……できないことを拗ねるなと……)
 こんなにもはっきりと言ってくる。それでも、いやな気持ちはしない。コンラートが本当にディアデのことを心配していることが、真っ直ぐな言葉から伝わってくるからだ。これがコンラートの優しさなのだ、とディアデは改めて思った。
「……おまえはいつも、わたしに優しいな……」
 ぽつりとディアデが呟くと、コンラートはふふふと笑って答えた。
「わたしも男だからな。愛する女性には優しくしたくなるのだ」
「あ……、ああ、愛する、だと……っ」
 ディアデはたちまち赤面した。うっかりと忘れていたが、一刻ほど前に求婚をされたのだ。それもきわめて正統な、コンラートにしては奇跡のように甘い言葉を並べてだ。顔の赤みが全身に広がり、恥ずかしさで汗までにじんでくる。頭が回らなくなって硬直していると、コンラートが握っていた手をふと持ち上げた。なんだ、と思ううちに、その手にコンラートが口づけをした。
「……っ!!」
「ディアデ」
 もう一度、指先にキスをされた。ぞわっと全身に寒気が走った。体中熱いのに、べつにいやではないのに、どうしてこんな感覚が、と大混乱をしていると、コンラートは真っ直ぐにディアデの目を見つめ、照れることも臆することもなく、いつもと同じように穏やかに言った。
「ディアデ、おまえが好きだ。愛している」
「コ、コ……っ」
「兵学校の生徒だった時のディアデも、騎士見習いだった時のディアデも、侍衛騎士になってからのディアデも、ずっと好きだった」
「コココンラートっ、ま、待ってくれ…っ」
「たとえばこの先、おまえから、どんな肩書きがなくなろうとも、おまえを愛し続ける。ディアデ、おまえがディアデならわたしはそれでいい。ずっと、ずっとだディアデ、愛していく。美しいディアデ、どうか私の妻になってほしい」
「愛…? 美しい…?」
 コンラートが口にしたとも思えない言葉だ。あまりにも似つかわしくなくて、ふ、と微笑ってしまったディアデだが、言葉の意味と、コンラートが、男が、異性が、それを口にしたことの意味がじわじわと頭に染みこみ、理解できたとたん、ディアデの心臓がとてつもなく大きく跳ねた。それから自分でもわかるほど、カアッと顔が熱くなった。求婚された時よりもなんというか……。
(……う、嬉しい、のか……!?)
 驚愕した。たしかにこの気持ちは、恥ずかしいのではなく、嬉しいのだ。コンラートに、愛していると言われたことが。
(ほ、本当か!? 本当にコンラートがそう言ったのか!? 愛していると、このわたしに!?)