立ち読みコーナー
目次
296ページ
序章            5
一章            13
二章            57
三章            94
四章            132
五章            172
六章            212
七章            250
終章            287
あとがき          291
100ページ~
 悠然とまた唇を重ねられ、さらに激しく貪られた。
 そのまま倒されていく。寝台に頭を押しつけて逃れるように仰け反ると、シェネウフが離れた。
 解放されて、リイアは大きく喘いだ。息が苦しくてたまらなかった。心臓が痛い。
 ——壊れてしまいそう……。
 苦しさから無意識に、重ねた両手を胸の上に当てる。
「どけろ」
 短くこぼした言葉とともにその両手首をつかまれて、ぐい、とひとまとめに頭の上に縫いつけられた。
 リイアの身体を跨いで寝台の上に乗り上げたシェネウフが、もう片方の手で、頭につけたネメスを外す。それを放り投げると、額部分につけられていた黄金細工の記章が床に転がり、カチン、と硬い音が響いた。
 短い黒髪の下、シェネウフはひどく怖い顔をしている。
「おやめ……ください、どうか、王よ……!」
 かすれた声でリイアが懇願すると、シェネウフは目を逸らし、顔を歪めた。
「いやだ」
 濡れた唇が慄き、王らしからぬ小さな声で答える。
「おまえが憎んでいても、どうでもよい。余は、王だ。おまえの意思など……!」
「……っ」
 リイアの薄い色の目が揺れる。
 いっそ憎めるなら、そうしたい。だが、どうしても——心の奥の奥まで探ってみても、この若い王を憎む気持ちなど、欠片も湧いてこないのだ。
「……憎んでなど、おりません」
 言葉にした途端、鼻の奥に鈍い痛みが生まれ、涙がこぼれた。しゃくり上げ、こらえきれず泣きだす。
 悲しみの理由はわからなかった。
 ただ、ひどく胸が痛い。涙は次から次へと溢れた。
「泣いても、もうやめぬぞ!」
 両手を頭の上に縫いつけていた手を放し、シェネウフは声を荒らげた。リイアの身体の下に手を差し込んで、引き寄せる。
 細い身体を腕に閉じ込めて、王は叫んだ。
「余のものにするんだ……!」
「……ッ」
 驚きで、息が止まった。
 上げていた手がそのままシェネウフの肩に落ちる。
 なぜ——? 
 だが答えはすぐにわかった。——憎いから。その答えが泡のようにいくつも弾け、胸を締めつける。
 王がわたしを欲する理由はただ、憎しみをぶつけたいからだ。女王の代わりにわたしを、傷つけたいからだ。
 ……だが、自分を抱きしめる腕の熱さは、なんだろう? 
 密着した肌が伝える、鼓動の高鳴りはなんなのだろう……? 
 力強い腕に抱きすくめられる陶酔に、気が遠くなる。
 リイアは目を閉じた。名残の涙が押されて、頰を伝い落ちる。
 シェネウフの頭部を抱えるように、そっと腕を回した。王に対して——と、咎められることなど、思いもしなかった。
 子供のようにすがりついてくる王。
 真実を知らない王。憐れな、少年の……。
 シェネウフが腕の力をゆるめた。距離が生まれ、ふたりの視線が絡む。
「——……ん」
 どちらからともなく、唇が重なった。