立ち読みコーナー
目次
304ページ
プロローグ             5
一章 売られたシンデレラ      21
二章 旅の始まりは舞踏会      38
三章 星降る夜の甘い口づけ     69
四章 豪華客船の初夜        109
五章 砂漠の蜜月          173
六章 氷の城の真実         234
七章 シンデレラの憂鬱       258
八章 王子様のマドレーヌ      275
エピローグ             296
あとがき              299
85ページ~
「綺麗だ……」
「本当に綺麗な海ですね……」
 星降るような夜空が目の前に広がっている。それは、キラキラと輝いて、くっきり星座を描いている。
「フェリクスさんは、たった一人、運命の人がいるって信じますか?」
「ああ。信じている。でも、それを摑み取るには、きっと勇気が必要なんだ……」
 フェリクスはまた黙り込むと、ひどく真剣な面持ちで海を眺めていた。
(今、二人きりになってる……)
 美しすぎる異国での非日常の夜が、心を常ならざる状態にしていた。
 マドレーヌは胸に秘めた思いを打ち明けようか迷った。身分違いの恋が成就することはあり得ない。恋人になりたいなどと大それたことも考えていない。でも、生まれて初めての恋なのだ。素直な気持ちを伝えるだけでも……そんな衝動がふと込み上げる。だが、恥ずかしがりやのマドレーヌに告白などできるはずもなかった。
 切ない思いで膝を抱えていると、フェリクスの声が急に頭上から降ってくる。
「俺のたった一人の、運命の女はマドレーヌなんだ!」
 唐突な告白に時間が止まる。
「フェリクスさん、よっ、酔っていますか……?」
 動揺のあまり声が不自然なほど上ずってしまう。
「ああ……君に酔っている……ダンスを踊った最初の晩から、本当は一目惚れだった……いや、初めて出会ったときから、本当は運命めいたものを感じていたのかもしれない……」
 フェリクスは突然マドレーヌを胸に深く抱きすくめた。彼の熱い腕の中で、マドレーヌはしばらく言葉の意味が呑み込めず、大きく瞳を見開いて固まっていた。
「嘘……私なんて、まだまだ子どもだって……」
「そうでも自分に言い聞かせないと、きっと気持ちに歯止めが利かなくなると思った……」
 細い顎を掬い上げられると、蜂蜜色の瞳が間近に迫る。
「あっ……」
 ふいにやわらかくて温かいものが唇を掠めた。それが彼の唇だと気がついて、マドレーヌはとっさに口を引き結んだ。整った唇はふわりと触れて、すぐに離れた。
 生まれて初めてのキスは一瞬の出来事だった。甘い余韻に胸が高鳴って、身体から力が抜ける。
「マドレーヌは世界でたった一人、俺だけのお姫様だ……」
 憧れの王子様だった彼とキスを交わしてしまったなんて。現実に起きたことが信じられなくて、マドレーヌはぼうっと魂が抜けたようになってしまった。すると、再び細い顎を掴まれ、唇が重なった。
「んんっ……」
 今度は、さっきのやさしい触れ合いとは違っていた。唇の弾力、彼の熱情を唇越しにはっきりと感じる。フェリクスはやわらかい唇に吸いつき、下唇をやさしく嚙んでいた。啄むような口づけが、どんどん熱をおびてゆく。
「あっ……フェリクスさん……」
 いつのまにか、白い浜辺に押し倒されて視界が回転した。
 砂浜に押し倒されると、頭上に降ってきそうなほど星が輝いていた。月を背にした彼はいつもと違う、どこか危険な魅力を湛えている。フェリクスに女として見られていることに、マドレーヌはこれまで感じたことのない心の昂(たか)ぶりを感じていた。びくんと細い肩を震わせていると、温かい手のひらが頰を包み込んでいた。
「子どもだなんて最初から思っていなかった。その証拠を見せてあげようか?」
「えっ……あ……」
 フェリクスは角度を変えながら、ぷっくりと愛らしい下唇に吸いついた。引き締まった唇が、マドレーヌの柔らかい唇をはさみ込んでいる。粘膜がこすれ合う感触がひどく艶めかしくて、マドレーヌはうろたえた。だが、いつのまにか濡れた舌先に唇を開かされると、それは口の中に強引に潜り込んでしまう。
「ンッ……ふうっ……」
 口の中で熱い舌が蠢くのを、驚愕と共に受け入れてしまった。
「ずっと、この可愛い唇を塞いでしまいたいと思っていた……」