立ち読みコーナー
目次
304ページ
絢爛たる愛人契約 ~年上公爵様の愛しのバレリーナ~
一章 仮面舞踏会の出会い    5
二章 瀕死の黒鳥        28
三章 愛人契約         46
四章 公爵様の束縛       89
五章 芽生える恋心       130
六章 城館の蜜夜        159
七章 穢されたジゼル      210
八章 愛と赦し         247
九章 運命の赤い糸       275
あとがき            299
「返事を聞きたいと言ったのは、この部屋に入る口実だ」
リオネルは口角を上げて、ニッと不敵な笑みを浮かべる。
「ただの親切なだけの後援者役は、今夜限り降ろさせてもらう」
気がついたら、大きくて逞しい胸にすっぽりと包まれていた。ふと、抱き締める腕から白薔薇の香りが漂ってくるような錯覚に襲われた。今まで、大切なことすぎて尋ねられなかった問いを、アリシアは思いきって投げかける。
「……ひょっとして、白鳥の公演の頃から、お花をくださっていませんでしたか?」
「ああ、ずっと白い薔薇を一輪、贈らせてもらっていた」
やはり、彼が白薔薇の人で、ずっと観ていてくれたのだ。アリシアの胸がふるふると震えだす。
「舞台で大失態を演じてしまったあの日、世界にたった一人取り残されてしまったような心細い気持ちでした。そんな時、あの一輪の薔薇がどんなに心を慰め、勇気を与えてくれたことか……ずっと、お礼を言いたいと思っていたのです……」
「礼を言いたかったのは俺の方だ。貴女の白鳥と出会って、俺は救われた。貴女の白鳥はいつだって、汚れた心を洗い清め、生きる勇気を与えてくれる。ただの美しいだけのバレエだったら、こんなに夢中にはならなかっただろう。貴女の白鳥には深い悲しみが宿っていて、それが俺の魂を震わせたのだ」
「深い悲しみ……」
アリシアは青い瞳に影を滲ませる。帰る故郷を失くした白鳥は、アリシア自身だった。それを感じ取ったリオネルもまた、心に悲しみを宿していたのだろう。それは、かつて彼を情けのない暴君と呼ばれるまでに変えてしまったことと、何か深い繋がりがあるのかもしれない。だが、あれ以来、彼はちゃんと約束を守ってくれている。そして、公私共に身に余るほど尽力してくれた。アリシアは今では彼の人柄を全面的に信じきっていた。
「それに、あのサシェもありがとうございます。あれを枕元に置くようになってから、怖い夢を見なくなりました。きっと、夢の中でもリオネル様が私を守ってくださっているのですね」
「どんな、残酷な運命からも、これからは俺が守ってやる。もう、大切な人をむざむざと目の前で死なせたりはしない。だから、貴女はいつでも安心して微笑んでいればいい」
どんな高価な贈り物より、一番欲しかった言葉をかけてもらって、アリシアの胸はジーンと熱くなった。それを見つめるリオネルの瞳にも、深い想いが籠っている。
「もう、一人で頑張るな。これからは、俺が共にいることを忘れないでくれ」
「こうして、リオネル様に抱き締められていると、ほっとします……」
「そんなことを言われたのは初めてだ。胸が高鳴るだの、興奮するとは言われるが」
いつの間にか、彼のことをすごく好きになっていたのだと、アリシアは今やっと自分の気持ちを自覚したような気がした。甘えるように彼の首に手を伸ばすと、リオネルは愛しげに目を細めて、やさしく微笑んでいる。同時にふわりと身体が宙に浮いた。
力強いリフトに支えられアリシアは寝台に運ばれる。光沢のあるシルクの寝具に丁重に下ろされ、そのまま、リオネルが寝台に上がってきた。重みでベッドフレームの軋む音がギシッと鳴る。その間、アリシアがわずかな抵抗も見せなかったので、リオネルの表情に安堵の色が浮かんだ。
「貴女が俺を心から受け入れてくれる、この日をずっと待っていた。まったく、罪作りな女だ。恐れを知らぬ俺を、こんなに骨抜きにしてしまったのだから」
「ずっと、愛人にしては色気が不足しているのだとばかり思っていました……クレパンさんにもいつもそう言われていましたから。それに、リオネル様にも娘の発表会なんて、言われていましたし……」
「そうでも言い聞かせないことには、体の中の獣が鎖を引きちぎっていつ貴女に襲いかかろうとするやもしれん。同じ屋根の下で暮らすようになってから、必死で自制していたのだぞ。だが、もうそんな我慢も必要ないようだな」
「あっ……」