立ち読みコーナー
目次
288ページ
政略婚は秘密の蜜愛ウェディング   5
あとがき              284
119ページ~
「エレインさまに触れることを、許してくださいませんか」
 今さら何を、とエレインは不思議に思う。
 ユージーンは幼い頃から自分に大切に触れてくれていた。落ち込んだときには頭を撫でてくれたり、包み込むように優しく抱きしめてくれて、その温もりはいつもエレインの心に力を与えてくれていた。
「何を馬鹿なことを聞くの?ユージーンが好きにしてくれて、いいのよ。あなたはいつも私のことを考えてくれて……私が嫌がることなんて一つもしたことがないんだから……」
 媚薬のせいで思考回路がうまくまとまっていないため、エレインは心のままに答えている。
 ユージーンがまた息を呑み、何かに耐えるかのように大きく息を吐き出した。
「優しく触りますから……もし何か嫌なことがありましたら、我慢せずに教えてください」
「え、ええ……あぁ……っ」
 ユージーンの片手が伸びてきて、言葉通りに優しく頬を撫でる。撫でられると、背筋がぞくりとするほどに気持ちがいい。
 ユージーンの片手は、頬から首筋に撫で下りた。顎を指先でくすぐられて、エレインは息を詰める。
(気持ち……いい……)
 ユージーンの指が再び上がり、エレインの唇を撫でた。唇のかたちを確かめるように何度も左右に動く指先が、次第に唇の中に入ってくる。
「ん……ふ、う……っ」
 人差し指が唇の中に入り込み、口中をゆっくりとかき回してきた。指の腹が歯列や上顎、頬の内側や歯茎までも撫でてくる。
 不思議な心地よさで、唾液が溢れてくる。エレインはそれを垂らさないように必死だ。こくんと飲み込めばユージーンの指を自然と吸ってしまう。
「んふ、ふぅ……っ」
 口中をいじられているため、鼻先から甘ったるい吐息が溢れてしまう。本当にこれは自分の声なのだろうか。
 ユージーンはエレインに触れながら、どんな反応も見逃さないとでもいうようにじっとこちらを見つめている。いつもは理知的で清廉な印象の青い瞳が、今はとても熱っぽくエレインを見つめている。その熱い視線を感じるだけで、何か下腹部の奥がきゅんっと疼いてくるのだ。
(媚薬って……こんなにすごいもの、なの……?)
 それとも、恋する相手に触れられているからだろうか。
「エレインさま……あの……唇で触れても……いい、ですか……?あなたにもっと……触れたい……」
 指で触れられただけでもこれほどに気持ちがいいのだから、ユージーンの唇はもっと気持ちがいいだろう。ぼんやりとした思考はエレインをひどく素直にさせる。
 こくん、と小さく頷くと、ユージーンがエレインの身体にそっと身を被せ、首筋に顔を埋めてきた。少し乱れた呼吸が熱く、エレインは身を震わせる。唇が肌を柔らかく啄ばみ、舌先がくすぐるように舐めてきた。
「ん……んん……っ」
 反射的にエレインは身じろぎして、逃げ腰になる。だがユージーンの重なった身体はぴくりとも動かない。
 唇と舌は熱く、触れられるとくすぐったくて─けれども不思議と気持ちがいい。ユージーンの身体の重みも体温も、心地よかった。