- 目次
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砂の国の花嫁 ……7
それからどうなったかというと…。 ……253
あとがき ……268
(53ページ〜)
「興ざめだ」
突き放すように言って、クロストムは身体を起こして娘から離れた。そうでも言わないと目の前の娘から離れがたく、すでに滾った己の分身を抑えることができなかったのだ。
欲望のまま突き進んでしまい、酷いことをした、と後味の悪さが残る。
「待って!」
娘がクロストムの手を掴んだ。
「泣いて嫌がる女を抱くつもりはない」
自分への言い訳だった。
「これは、これは条件反射。そう、条件反射なの。気にしないで」
慌てて涙を拭き、必死に言い訳する娘をクロストムは見下ろした。
「お前はどうしてそこまでするのだ」
そこまでして土を欲しがる理由が、クロストムにはわからない。
「土が必要なのは、何かを育てるためなのか?」
その問いに、娘はほんの少し反応したが、それでも話そうとはしない。
クロストムは溜息をついて、帰れ、と言った。
「いや、嫌です!」
娘は縋りついてきた。
「興ざめだと言っただろう。もういい、とっとと帰れ」
「でもっ!」
途中でやめると、土がもらえないと思っているのだ。
「持って帰るがいい」
クロストムの言葉に、娘は目を見張った。
「これでわかっただろう。自分のしようとしていたことがどんなことなのか」
娘は慌てて身を小さくし、両腕で胸を隠した。隠しきれていない白い果実には、クロストムのつけた赤い印がいくつも見える。
自分の犯した罪に居たたまれず、クロストムは娘から視線を外した。
「土はすでに塀の外だ。お前があれを拾って持って帰っても、咎められることはない」
「本当に?」
「私を疑うのか?」
娘は涙を飛び散らしながら、頭を振った。
服を着るように言い、クロストムは立ち上がって背を向けた。しばらくして、パタパタと音がしたと思ったら、ありがとう、とマントが後ろからそっと差し出される。
汚れを払ったマントをクロストムが受け取ると、娘は鼻を啜りながら歪んでいたカチーフを深く被り直した。
衣服を整えた娘には、さっきまでの色めく姿はどこにもなかった。
娘は深々と頭を下げると塀へと向かう。
「土が欲しければまた来るがいい。だが、次は覚悟して来い」