- 目次
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口づけに酔わされて 5
ベリーを摘みに 261
あとがき 273
137ページ~
レイノラは前日に交渉術の本を読んだ。
勝ち負けを競っているわけではないのに、ラストラドに太刀打ちできない自分が歯がゆくて仕方がないので、口づけを防ぐ方法を見つけようと思ったのだ。
本には相手につけ込まれないよう、弱みを見せるべからず、と書かれていた。それなのに、くしゃみをするという失態を犯した。
「震えが止まったら解放してあげるよ」
そう言って、ラストラドはドレスに隠れていない場所、項(うなじ)や耳を啄む。
くすぐったい。
冷えた肌にラストラドの熱い唇が触れると、触れた場所がじんわりと温かくなる。熱い吐息がレイノラの肌を撫で、産毛を総毛立たせた。
ラストラドは逸話を語りながら、合間に項や耳を甘く噛み、舌を這わせる。レイノラは途中から、ラストラドの話が耳に入ってこなくなってしまった。
会話が途切れると、おしゃべりはしまいだ、と強引に顔を上げさせられ、後ろから覆いかぶさるように唇を奪われてしまった。
ラストラドに口づけされると、ぼうっとなってしまう。
「今日は君のベリーに口づけできないな」
残念そうに言ったラストラドは、生地の上から大きな手で両の乳房を揉みながら乳首を愛撫し、腰や尻のあたりまで撫でさすった。
口づけだけの約束なのに、とレイノラは身を捩ったが、できたのはそんなささやかな抵抗だけで…。
「悔しい。どうして拒まなかったの!」
抵抗しようと思えばできたはずなのに、流されてしまった自分に苛立つ。
口づけされながら身体を愛撫されると、耐えがたい疼きが湧いた。それは、上手く言いあらわすことができない感覚で、レイノラをうっとりさせるのだ。
生地越しに乳房に触れるラストラドの手は、羽根が触れるようにそっと滑らせたり、一転、激しく揉みしだいたりと、緩急をつけて動き回った。ラストラドの手に踊らされるように、レイノラは甘い吐息を吐き出し、身悶え、何も考えられなくなってしまった。
拘束から解き放たれると、冷たい夜風が身体の熱を冷まし、頭の中にかかっていた靄を吹き散らした。
ラストラドの名前を呼んでいた自分の痴態が恥ずかしくなり、もうラストラド様には会わないわ! と心の中で意思を固めるのだけれど…。
次の『千の物語』を目の前に差し出されたレイノラは、まるで、骨を投げ与えられた犬のように飛びついてしまったのだ。
「ううう…、違うわ、お利口な犬は我慢できるもの。私って、なんて意志の弱い人間なのかしら」