- 目次
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序章 5
一章 13
二章 57
三章 94
四章 132
五章 172
六章 212
七章 250
終章 287
あとがき 291
100ページ~
悠然とまた唇を重ねられ、さらに激しく貪られた。
そのまま倒されていく。寝台に頭を押しつけて逃れるように仰け反ると、シェネウフが離れた。
解放されて、リイアは大きく喘いだ。息が苦しくてたまらなかった。心臓が痛い。
——壊れてしまいそう……。
苦しさから無意識に、重ねた両手を胸の上に当てる。
「どけろ」
短くこぼした言葉とともにその両手首をつかまれて、ぐい、とひとまとめに頭の上に縫いつけられた。
リイアの身体を跨いで寝台の上に乗り上げたシェネウフが、もう片方の手で、頭につけたネメスを外す。それを放り投げると、額部分につけられていた黄金細工の記章が床に転がり、カチン、と硬い音が響いた。
短い黒髪の下、シェネウフはひどく怖い顔をしている。
「おやめ……ください、どうか、王よ……!」
かすれた声でリイアが懇願すると、シェネウフは目を逸らし、顔を歪めた。
「いやだ」
濡れた唇が慄き、王らしからぬ小さな声で答える。
「おまえが憎んでいても、どうでもよい。余は、王だ。おまえの意思など……!」
「……っ」
リイアの薄い色の目が揺れる。
いっそ憎めるなら、そうしたい。だが、どうしても——心の奥の奥まで探ってみても、この若い王を憎む気持ちなど、欠片も湧いてこないのだ。
「……憎んでなど、おりません」
言葉にした途端、鼻の奥に鈍い痛みが生まれ、涙がこぼれた。しゃくり上げ、こらえきれず泣きだす。
悲しみの理由はわからなかった。
ただ、ひどく胸が痛い。涙は次から次へと溢れた。
「泣いても、もうやめぬぞ!」
両手を頭の上に縫いつけていた手を放し、シェネウフは声を荒らげた。リイアの身体の下に手を差し込んで、引き寄せる。
細い身体を腕に閉じ込めて、王は叫んだ。
「余のものにするんだ……!」
「……ッ」
驚きで、息が止まった。
上げていた手がそのままシェネウフの肩に落ちる。
なぜ——?
だが答えはすぐにわかった。——憎いから。その答えが泡のようにいくつも弾け、胸を締めつける。
王がわたしを欲する理由はただ、憎しみをぶつけたいからだ。女王の代わりにわたしを、傷つけたいからだ。
……だが、自分を抱きしめる腕の熱さは、なんだろう?
密着した肌が伝える、鼓動の高鳴りはなんなのだろう……?
力強い腕に抱きすくめられる陶酔に、気が遠くなる。
リイアは目を閉じた。名残の涙が押されて、頰を伝い落ちる。
シェネウフの頭部を抱えるように、そっと腕を回した。王に対して——と、咎められることなど、思いもしなかった。
子供のようにすがりついてくる王。
真実を知らない王。憐れな、少年の……。
シェネウフが腕の力をゆるめた。距離が生まれ、ふたりの視線が絡む。
「——……ん」
どちらからともなく、唇が重なった。