立ち読みコーナー
目次
272ページ
皇帝の厳命         5
エスメラルダの怒り     31
リュシオンの工房      47
夜更けの侵入        60
困惑            100
迷い            117
相次ぐ事件         156
信じられない犯人      178
競技会           193
告白            232
あとがき          264
95ページ~
「いやっ、……お願い、怖い……っ」
 抵抗も虚しく、熱杭が突き刺さってくる。
 ずぶり、と。
 刺される音すら聞こえたようだった。
 激痛のあまり、反射的に背がしなる。
(いやぁぁぁ——っ! 痛いっ! 痛いわ、裂けちゃうっ! お願い、やめてぇぇぇぇ——っ!)
 なのに、エスメラルダは悲鳴を上げられなかった。とっさに唇を嚙み締め、声を嚙み殺していたのだ。
 どうしてだかわからないが、もしかしたら悲鳴などという『素の自分の声』を出してしまったら、彼に、『エスメラルダ』だと気づかれてしまうかもしれない。
 それが怖かったのだ。
 太い杭は、ずぶずぶと身体の奥まで入ってくるようだ。
 痛い。拡(ひろ)げられる感覚が、怖い。
 エスメラルダは必死で痛みをこらえた。
 本当にこんなことを、みんなしているのだろうか。
(………いや、……どこまで入ってくるのっ?  ……ああ、太すぎるわ……! 私、壊れちゃうっ!)
 身体中全部を、『リュシオン』に蹂躙されているようだった。
 なのに、唇をついて出てきたのは、
「あ……んっ、いや、あああんっ……いやぁんっ」
 エスメラルダはびっくりしてしまった。あわてて指先で唇を押さえた。
(やだ! どうしてこんな声が出てしまったのっ!? こんな、さかりのついたメス猫みたいな、甘ったれた声、本当に私の喉から出ているの?)
 リュシオンのほうは、溜息のような声を洩らした。
「…………根元まで、全部入ったよ。……ああ。……本当に、夢のようだ……。俺のミネルヴァ……。こんな日が来るなんて……」
 エスメラルダを、うまいことペニスで刺し貫いたので、もう力ずくで押さえ込んでいる必要がなくなったらしい。
 床に手をつき、上半身を少し持ち上げ、
「いいね? 優しく動くから。暴れないでね?」
 そろそろと腰を引き、また突き込んでくる。どうも、エスメラルダの膣内で、ペニスを抜き差ししているようだった。
 そのたびに、ずっちゅ、ずっちゅ、と聞くに耐えないいやらしい音がこだまする。
 エスメラルダは狼狽して、口走った。
「いやっ、……なに? なにか恥ずかしい音がするわっ。お願い、聞かないで!」
 リュシオンは首を振る。
「恥ずかしくなんかないよ。とても、……素敵な音だ。……君の身体が、俺を受け入れ始めたっていう音だよ。すぐに慣れるからね?」
 痛くてたまらない。なのに、リュシオンの腰の動きとともに、それだけではない甘い感覚が湧き起こってくる。
 本当に身体が慣れ始めているようだった。
 そのとき、ぽつりと。頰に汗が落ちてきた。
 興奮して暑がっているのかと見上げると、——違った。落ちてきているのは、リュシオンの涙だった。
 驚いて声を上げてしまった。
「リュシオンッ!?」
 彼は、はにかむような表情で、目を細める。
「…………ああ。初めて俺の名前を呼んでくれたね」
 そうっと、唇を重ねてくる。
「ごめんね。君にとっては、初めてのことで、つらいばかりだろうけど、……俺は、ずっとこうしたかったんだ。こうして、……君と、身体を重ねたかった。……今は、嬉しくて嬉しくて……」
 胸が震えた。
(リュシオンが、泣いてる……?)
 どうしてそんなふうに、幸せそうに泣くの? あなたが涙を流すところなんか、初めて見たわ。
 あなた、そんなに、『自分の彫った彫刻』を好きだったの? こんなふうに、性行為をしたいほど、惚れ込んでいたの? 
 だって、女性なら誰でもあなたのことを好きになるというのに、……あなたは、冷たい彫刻のほうがよかったの……?