- 目次
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序章 悲しみの中で 5
一章 見つめていました 14
二章 秘密の鳥 45
三章 触れたいのです 80
四章 もっと触れたいのです 128
五章 辺境の結婚生活 170
六章 ずっと一緒にいます 223
終章 喜びの中で 268
あとがき 281
138ページ~
「殿下、話をしながら……その……手をつないでみたり、まずは慣れましょう」
「いちゃいちゃを?」
「そうですね、そんな感じです」
「で、では」
エメリーヌは起き上がり、身体をねじってレオルディドを見上げた。
目が慣れてきたのか、夫になった男の様子が見極められた。くつろげた胸元に紐の下がる丈の長い白シャツ、ゆったりとした脚衣。短い髪は少し乱れているようだ。
(まあ……)
エメリーヌはうっとりした。同時にゾクゾクするような、戦慄に似たものが背を走った。
騎士服をつけたレオルディドしか知らなかった。銀色の徽章きらめく黒い外套をひるがえす彼を見ては胸をときめかせてきた。
しかし騎士の装いを外した姿はまた格別だった。目が離せない。
「殿下、寒くはありませんか」
妻の視線に含まれたものに気づいているのかいないのか、レオルディドは平素と変わらぬ声で訊き、エメリーヌの寝間着に包まれた細い肩に目を落とした。
「平気です……い、いえっ、寒いかしら」
「では暖炉の火を」
「いいえ!」
エメリーヌは慌てて両手を伸ばし、背を向けようとした男のシャツの裾をつかんだ。
「あなたがここにいてくだされば温まると思うのです……!」
「……なるほど」
レオルディドは重々しく頷いた。
「では、失礼いたします」
男の片膝が乗り上げられ、寝台がギッと音をたてた。
レオルディドはそのままベッドに座り足を伸ばし、覆い被さるようにして太い腕を回してくる。温かな手が背に当てられ、もう一方の手は上掛けごと両脚を包むように。
そしてひょいと持ち上げられた。
「……っ」
エメリーヌは息を飲んだ。寝台が揺れ、そして視界も揺れる。
頭の中も揺れている。
(わ、わたくし、大変なことを言ってしまいました)
レオルディドにぴったりと寄り添う形になったエメリーヌは、めまいをこらえてギュッと目を閉じた。鍛えられた胸元、さりげなく腰に回されたままの太い腕。そして柔らかさがまったくない足の上に座らされて……。
(……なんということでしょう)
これまでのいちゃいちゃよりずっと密度が濃い接触だ。
頭の芯まで焼かれている気がした。
エメリーヌは寝間着、レオルディドもシャツをまとったままだが、それらが障害になるはずもない。
むしろ互いの体温は布越しに混ざり、もどかしいほどの熱を帯び広がっていく。
(こんな……!)
エメリーヌは心の中で悶えた。